以下の4件は、いずれも本記事の執筆時点で進行中または近時のものであり、法的ステータス(判決/仮処分/係属中/和解/控訴中)を厳密に区別して読む必要がある。確定した法理として一般化してはならない。
3-1. ミュンヘン地裁——生成AI要約を「Google自身の言明」と評価(仮処分・控訴中)
事案: LG München I(ミュンヘン地方裁判所第26民事部), 事件番号 26 O 869/26, 2026年5月28日。原告は、12の出版ブランドを束ねるミュンヘンの出版社Verlagshaus24と、その子会社でGeraMondブランドの書籍・雑誌を刊行する会社。
何が起きたか: 2026年初頭、利用者がGoogle検索で出版社名と「詐欺の手口(Betrugsmasche)」という語を組み合わせて検索すると(この語はGoogleのオートコンプリートが提示していた)、AI要約が「はい、〔当該社〕は不誠実な商慣行で知られています」といった肯定文で始まり、「詐欺の手口の特徴」を列挙し、「消費者がとるべき対応」まで助言していた。裁判所の認定によれば、これらの中心的な主張は、AIが引用した情報源のいずれにも裏づけがなかった。AIは他の(実際に問題のある)会社の情報を原告と取り違え、どの引用元にも存在しない関連性を作り出していた。原告は2026年2月2日に弁護士名の警告書と同日のメールで、さらにGoogleの申告フォームを通じて通知したが、Googleは適切に対応しなかった。
判断の核心: 裁判所は、AI要約が単に第三者の検索結果を表示しているのではなく、Google自身の独立した言明であると評価した。理由は三点に集約される。(1) 結果を要約せず並べる従来のリンク一覧と異なり、AI要約は結果を「自らの言葉と構成で」要約・提示している。(2) どの情報源にも存在しない主張を含んでいる。(3) これを検索結果と同じに扱えば、機械が生んだ虚偽の被害者に何の救済も残らない。この評価により、AI要約が第三者情報の単なる保存・表示ではなくGoogle自身が生成した内容と評価されたため、GoogleはDSA上の媒介者免責をそのまま援用できないと判断され、直接の責任主体(unmittelbarer Störer)と位置づけられた。裁判所は「Googleは第三者に連絡せずとも、AI要約の内容を根拠となった情報源と照合して検証できる」とも述べ、利用者が自分で真偽を確かめるべきだというGoogleの反論を退けた。
ステータス(要注意): これは仮処分(einstweilige Verfügung)であり、確定判決ではない。第一審の判断で、Googleは既に控訴(Berufung)を表明している。違反1件あたり最大25万ユーロの秩序金が科されうるとされ、手続費用の80%をGoogleが負担する。ドイツ法(人格権・差止請求の枠組み)に基づく判断であり、他国に自動的に及ぶものではない。
3-2. Wolf River Electric v. Google——誤帰属と二次拡散(米国・係争中)
事案: LTL LED, LLC(屋号 Wolf River Electric)v. Google LLC。ミネソタ州の太陽光発電施工会社が、2025年3月11日にラムゼー郡地裁(州裁判所)へ名誉毀損訴訟を提起。GoogleはこれをD. Minn.(連邦地裁)へ移送し、Jeffrey Bryan判事に係属した(連邦事件番号 25-cv-02394)。
何が起きたか: GoogleのAI要約が、同社がミネソタ州司法長官Keith Ellisonから提訴されている、と述べた。実際に州司法長官は太陽光ローン4社(GoodLeap、Sunlight Financial、Solar Mosaic、Dividend Solar Finance)を提訴していたが、Wolf River Electricは被告に含まれていなかった。AI要約は4つの情報源(地元紙記事、口コミサイト、州司法長官の発表など)を引用していたが、いずれも同社が提訴されたとは述べていなかった。これは典型的な誤帰属(実際の情報源が支えていない主張を、あたかもその出典に基づくかのように提示する型)である。
損害と二次拡散: 原告は、2025年3月3日に3万9,680ドルの契約が、3月5日に15万ドルの契約が、3月11日には非営利団体との17万4,044ドルの案件が、それぞれ解約されたと主張する。2024年の損害を2,470万ドルと見積もり、請求額は1億1,000万〜2億1,000万ドルに及ぶ。重要なのは、誤情報がAI回答の中に留まらなかった点である。競合他社が商談で当該の虚偽を持ち出して顧客を遠ざけ、検索のオートコンプリートは「Wolf River Electric lawsuit Minnesota Settlement」と提示し、Reddit上には同社を中傷する投稿が現れた。誤情報はAIの外側へ二次拡散し、法的請求の対象が広がっていく(この論点は後述§6で扱う)。
ステータス(要注意): 本件は係争中であり、原告の主張段階にある。Googleは230条による免責を主張する構えとされ、専門家(ミネソタ大学ロースクールのMcGeveran学部長)は原告が「困難な戦い」に直面すると評していた。もっとも、2026年1月9日、Bryan判事はGoogleの連邦移送が期限を過ぎていたとして、本件を州裁判所へ差し戻すべきだと判断した(この命令が報じられたのは1月12日)。すなわち、どの裁判所が審理するかという入口の争いだけで、提訴から約10か月を要したことになる。本案の判断はこれからである。
3-3. Walters v. OpenAI——名誉毀損の高いハードル(米国・OpenAI勝訴/個人事案)
事案: Walters v. OpenAI, L.L.C., 事件番号 23-A-04860-2, ジョージア州グウィネット郡上級裁判所。2025年5月19日、裁判所はOpenAIの略式判決(summary judgment)申立てを認めた。原告は企業ではなく、全米シンジケートのラジオ司会者Mark Walters個人である。
何が起きたか: あるジャーナリストが、実在する別訴訟の訴状をChatGPTに要約させる過程で、ChatGPTが「Waltersが横領で告発された」という虚偽の要約を生成した。Waltersはこれを名誉毀損として提訴した。
判断の核心: 裁判所は三つの独立した理由でOpenAIを勝たせた。(1) 名誉毀損的意味の不成立——裁判所は、合理的な読者基準の下で、当該のやり取りにおける複数の注意喚起(ChatGPTが接続不可や知識のカットオフに言及していた点、OpenAIが不正確な情報の可能性を利用規約等で周知していた点)を重視し、その立場の合理的な読者は出力を「実際の事実」とは受け取れないと判断した。ジャーナリスト自身も短時間で内容が事実でないと確認していた。(2) 過失・現実的悪意の不存在——裁判所は、本件で要求される過失または現実的悪意(actual malice)の立証がないと判断した。OpenAIは誤りの抑制に努めており、「誤りが起こりうると知っていた」だけでは悪意にあたらない、というのがその理由である。(3) 損害の不存在——Walters自身が損害を被っていないと供述した。
ステータスと含意(要注意): 本件は個人事案であり、企業の風評被害とは前提が異なる。ここから読み取れるのは、米国の名誉毀損法理、とりわけ「合理的な読者が事実と受け取ったか」という要件や、過失・現実的悪意の立証の壁が、AI提供元にとって強力な防御になりうるということである。裁判所自身が述べたとおり、これは一つの裁判所による一つの事実関係の判断にすぎない。
3-4. Starbuck v. Meta/Starbuck v. Google——和解と係属
事案: 保守系活動家Robby Starbuckは、2025年4月にMeta社を、同社のAIが自分をアメリカ連邦議会議事堂襲撃事件(2021年1月6日)に関与したと誤って述べたとして提訴した。この件は2025年8月に和解し、Starbuckは同社のAIに関して助言する立場になったと報じられている(和解条件の詳細は非公開)。続いて2025年10月22日、StarbuckはGoogleをデラウェア州上級裁判所に提訴した。GoogleのAI(Bard、Gemini、Gemma)が、自分を「児童性的加害者」「性的暴行の常習者」などと繰り返し述べ、でっち上げの情報源を引用していたと主張し、少なくとも1,500万ドルを求めている。訴状によれば、GoogleのAIは「約284万3,917人の固有の利用者に虚偽かつ名誉毀損的な情報を届けた」と述べたとされる。これらはいずれも係争中の原告の主張であり、裁判所が事実として認定したものではない。
ステータス(要注意): Meta事案は和解済み(司法判断ではない)。Google事案は係属中で、Googleは却下(motion to dismiss)を申し立てている。その主張は、(1) 利用者のクエリが引き金であるためAIが「公表」したとはいえない、(2) 出力を見て信じた特定の人物を原告が示せていない、(3) ツールは実験的で不正確の可能性を明示していた、という三点である。両事案とも個人が原告である点に注意する。