7.1 まず把握する — 測定条件をそろえて確認する
最初のステップは施策ではなく確認です。候補者が投げそうな問いを、複数のAIサービスに入力してみてください。
- 「〇〇株式会社で働くのはどうですか」
- 「〇〇株式会社の残業時間や働き方を教えてください」
- 「〇〇株式会社と△△株式会社(競合)の社風の違いは」
- 「〇〇業界で働きやすい会社を教えてください」(自社が挙がるか)
- 「〇〇株式会社に応募する際の注意点はありますか」
4番目と5番目が特に重要です。前者は自社が「発見」される可能性を、後者は辞退経験者が最多で挙げた「他社との比較で不利な評価」の有無を確認するためのものです。
そして、確認するなら測定条件を記録してください。「何回か試した」だけでは、変化が起きたときに原因を切り分けられず、社内で共有もできません。最低限、次の項目をそろえます。
| 記録すべき条件 | なぜ必要か |
| 使用したAIサービスとモデル | サービス・モデルごとに回答が異なる |
| Web検索機能の有無 | 最新情報を参照するかが変わる |
| 言語・地域設定 | 参照される情報源が変わる |
| 実施日時 | 参照元の増減と対応づけるため |
| ログイン状態・会話履歴の有無 | 個人化の影響を切り分けるため |
| 使用したプロンプト(一字一句) | 表現が変われば結果も変わる |
| 同一条件での反復回数 | 1回の結果は1サンプルにすぎない |
これらを記録して初めて、「先月より悪化した」「競合より不利だ」という判断に根拠が生まれます。
7.2 一次情報を整備する
優先順位は、AIが誤りやすい領域から。前章の限定調査で最も多く挙げられたのは「既に変更されている古い情報」、次いで「存在しない制度や福利厚生」でした。制度・福利厚生・事業内容の記載が最新か、旧制度の記述がWeb上に残っていないかを点検します。
候補者が不安に感じる論点に、具体的な数値で答える。ネガティブ情報として多く挙げられたのは残業・ワークライフバランス、社風、給与、離職率でした。公開できる範囲の実数(平均残業時間、有給取得率、離職率、育休取得率など)を、根拠と算出期間を明示して公開することには意味があります。「風通しの良い社風」といった抽象的な表現は、同じ調査の「情報が抽象的で企業の実態が伝わらなかった」という回答に該当し得ます。
更新日を明記し、FAQで先回りする。いつ時点の情報かを示すことは読み手にもAIにも有用です。候補者が不安に思う論点をQ&A形式で整理することも有用ですが、後述の通り、FAQに構造化データを付けて検索エンジン上の表示が有利になるという期待は持たないでください。
7.3 第三者の場を無視しない、しかし操作しない
自社サイト以外の情報源が大きな比重を占める以上、そちらを無視することはできません。しかし、ここには明確な一線があります。
やってよいこと
- 口コミサイトの企業ページに、公式情報として正確な事実を掲載する(多くのサービスが企業向けの公式情報掲載機能を提供しています)
- 事実誤認がある投稿について、各サービスの規約に沿った正規の手続きで申し立てる
- 社員の真実かつ自発的な発信を妨げない
- 取材や外部メディアへの寄稿を通じて、第三者の場に正確な情報を増やす
- 業界団体の調査や公的な統計に協力し、客観的なデータが参照可能な形で存在するようにする
やってはいけないこと
- 社員に好意的な口コミの投稿を指示する、または報酬・人事評価と結び付けて依頼する
- 第三者に依頼して口コミを投稿させる
- ネガティブな口コミを、内容の真偽にかかわらず一律に削除させようとする
社員の発信については、消費者庁「ステルスマーケティングに関するQ&A」の考え方が参考になります。同Q&Aは、従業員が自身のSNSで自社商品の感想を投稿しても、それだけで直ちに「事業者の表示」に当たるとは判断されないとしつつ、従業員の地位・立場・権限・担当業務・表示目的等の実態によっては、事業者が表示内容の決定に関与していると認められ「事業者の表示」に当たる場合があると説明しています。その場合は「広告」等と分かりやすく記載し、事業者の表示であることを明瞭にする必要があるとされます。
つまり所属を書き添えれば済む話ではありません。会社による指示・評価・報酬と結び付けないこと、広告・宣伝に当たる場合は関係性を明瞭に表示すること、守秘義務や個人情報に配慮することが実務上の要点です。
なお同告示は、一般消費者向けの商品・役務に関する表示を対象とする景品表示法の枠組みです。採用領域の口コミが該当するかは表示の内容や目的によるため一律には言えません。ただし法令面を措いても、事業者が関与した表示を第三者の自発的な発信に見せかけることは、発覚時に採用ブランドへの打撃が大きくなるおそれがあり、各サービスの規約違反にもなり得ます。
正攻法は、正確な一次情報を、参照されやすい形で、十分な量、公開し続けることです。遠回りに見えますが、これ以外に持続可能な方法はありません。
7.4 やってはいけない技術的な誤解
JobPosting構造化データは、AI OverviewsやAI Modeへの掲載を直接保証する専用施策ではありません。Googleは求人検索の体験に関する要件としてJobPosting構造化データを規定していますが、AI機能への掲載についてGoogle Search Centralの公式ドキュメントは「追加の要件はなく、特別な最適化も必要ない」「新たな機械可読ファイルやAI向けテキストファイル、マークアップを作成する必要はなく、追加すべき特別なschema.org構造化データもない」と明記しています。JobPosting構造化データは求人検索体験のために適切に実装すべきものです。この論点は独立した記事で詳しく扱う予定です。
llms.txtの設置をGoogle検索向けの施策として推奨することはできません。上記の通り、Googleは新たな機械可読ファイルの作成が不要であると明言しています。
FAQPageのリッチリザルトは、2026年5月7日以降Google検索に表示されません。FAQコンテンツ自体は候補者にとって有用であり、AIが参照する材料にもなり得るため作成する意味はありますが、「構造化データを付ければ検索結果で目立つ」という前提で工数を投じるべきではありません。
一方、Googleが公式に推奨する基本事項は採用サイトにもそのまま当てはまります。robots.txtやCDN・ホスティング基盤でクロールがブロックされていないこと、重要な情報がテキスト形式で取得可能であること、構造化データが可視テキストと一致していること——地味ですが、まず確認すべき前提条件です。採用サイトがクロールできない状態では、少なくともそのページをGoogle検索やGoogleのAI機能で参照可能にする施策は機能しません(第三者サイト上の自社情報はこの影響を受けません)。
なお、人材紹介・派遣・ATSを経由した求人における「雇用主が誰か」の帰属問題は、AI上での認知に固有の論点を生みます。これも別稿で扱う予定です。
7.5 部門間の連携
AI上での見え方は人事だけで管理できるものではありません。参照される情報源には、広報が管理するプレスリリース、IRの開示資料、マーケティングが管理するコーポレートサイトが含まれます。逆に、採用サイトの情報が採用以外の文脈のAI回答に使われることもあります。
人事が単独で採用サイトだけを整えても、他部門の発信と矛盾していれば、AIはその矛盾ごと候補者に提示します。少なくとも広報部門とは、見え方に関する情報を共有する体制を推奨します。