3-1 法律上の雇用主は派遣元である
労働者派遣法第2条第1号は、労働者派遣を次のように定義しています。
> 自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする。
条文が「自己の雇用する労働者」「当該雇用関係の下に」と重ねて述べているとおり、雇用関係は派遣元と派遣労働者の間にあります。派遣先は指揮命令を行う立場であり、雇用関係の当事者ではありません。
厚生労働省の解説も同じ整理です。労働者派遣事業を「派遣元事業主が自己の雇用する労働者を、派遣先の指揮命令を受けて、この派遣先のために労働に従事させることを業として行うこと」と説明し、労働者派遣と請負の区分に関するガイドでは、責任主体を「雇用主(派遣元事業主、請負事業者)」「派遣先」「注文主」と書き分けています。行政文書が「雇用主」を派遣元に対して用いている点は、実務上重要な確認点です。
なお、ある契約形態が労働者派遣に該当するか請負に該当するかは、契約の形式ではなく実態に即して判断されます。個別事案の判断は社会保険労務士・弁護士にご相談ください。
3-2 同じ求人票の中で、二つの主体が別の欄に入る
労働者派遣法上の雇用関係と、§2で見たGoogleの各プロパティ定義を重ねると、本稿では通常の派遣求人を次のように整理します。
| 仕様上のフィールド | Googleの定義 | 本稿の当てはめ |
hiringOrganization | 職位を提供する組織。会社の名称であり、採用している個別の拠点名ではない | 派遣元事業主 |
jobLocation | 従業員が出勤する事業所の物理的な所在地。求人が掲載された場所ではない | 当該求人で実際に就業する事業所の所在地。派遣先企業の本店所在地とは限らない |
★この対応関係は本稿の当てはめです。Googleが日本の労働者派遣について個別に明示しているわけではありません。 Googleが明記しているのは、各プロパティが何を指すかという定義までです。
構造化データの記述としては、次のような形になります。
{
"@context": "https://schema.org/",
"@type": "JobPosting",
"title": "カスタマーサポート",
"datePosted": "2026-08-10",
"validThrough": "2026-10-10T00:00",
"hiringOrganization": {
"@type": "Organization",
"name": "(雇用関係のある派遣元事業主の名称)"
},
"jobLocation": {
"@type": "Place",
"address": {
"@type": "PostalAddress",
"addressLocality": "(就業する事業所の所在地)",
"addressCountry": "JP"
}
}
}
一つの求人票の中に、雇用関係を持つ企業名と、その企業とは資本関係も雇用関係もない企業の所在地が、並んで格納されます。これは誤りではなく、仕様の定義に忠実に従った結果です。
この例に employmentType を入れていないのは、Googleの employmentType に日本法上の「労働者派遣」を直接表す値が用意されていないためです。TEMPORARY は有期の職位を意味するにすぎず、労働者派遣という法的関係を表すコードではありません(無期雇用派遣も存在します)。§2-4 のIndeedのコード体系との違いが表れる箇所です。
3-3 日常の言い回しと、法的な雇用関係のずれ
問題は、この構造が自然文に落ちるときに生じます。
日常の日本語で、派遣で働く人が「いまA社で働いています」と言うのはごく普通の表現です。この「で」は就業場所を指しており、雇用主を指してはいません。しかし文面だけを見れば、正社員として同じことを言う場合と区別がつきません。
求人票を要約する処理は、この区別をフィールドの定義以外からは得られません。両者が自然文に畳まれた時点で、区別の根拠は文脈に委ねられます。
ここまでが構造の説明であり、実際にどの程度の割合で区別が失われるかは、本稿で確認した範囲では確認できませんでした。 経路が存在することと、その経路がどれくらい通られるかは別の問題です。
3-4 職業紹介の場合はどうなるか
職業紹介では、雇用関係は求人企業と求職者の間に成立します(職業安定法第4条第1項)。紹介会社は雇用主ではありません。したがって hiringOrganization に入るべきは求人企業です。
ところが実務では、求人企業名を伏せた非公開求人が広く扱われています。この場合に用意されているのが §2-2 の confidential と、§2-4 の isPlacement・sourceType の組み合わせです。どちらも「雇用主が誰か分からない」ための仕組みではなく、「雇用主を伏せることを明示する」ための仕組みである点に注意が必要です。
なお紹介予定派遣(労働者派遣法第2条第4号)では、派遣期間中の雇用主は派遣元ですが、職業紹介が成立して派遣先が直接雇用した後は帰属する主体そのものが変わります。本稿の整理は派遣期間中についてのものです。