Q1. 英語版サイトを作れば、英語圏のAIに載るようになりますか。
英語化は有効な手当てのひとつですが、それだけでは十分ではありません。当事者由来のデータではありますが、ブランドについてのAI回答の引用のうち85.7%は、そのブランドが所有していないサイトを指していました。自社所有のサイトは14.3%です。つまり、AIが自社について語る根拠の大半は、自社の外側にあります。加えて、多言語RAGの再ランク段階には英語とクエリ言語を優遇する傾向があり、これは自社がどの言語でページを用意するかとは独立に働きます。英語版の整備は有用な手当ての一つですが、AI回答への掲載について必要条件とも十分条件とも実証されていません。
Q2. 日本語で聞くのと英語で聞くのとでは、AIの答えはどのくらい変わりますか。
自社について日英でどの程度変わるかを示した公開ベンチマークは、本調査の範囲では見つかりませんでした。ただし一般的な機序としては、査読研究で明確に確認されています。10個のLLMを11言語(日本語を含む)で検証した2026年の研究では、プロンプト言語を変えることが、明示的に「◯◯人の視点で答えよ」と指定するのとほぼ同程度に出力を動かしていました。差の大きさは、モデル・話題・言語によって変わります。自社についての実際の差は、自社を対象に測る以外に知る方法がありません。
Q3. 現地語で質問すれば、その国の文脈に合った答えが返ってきますか。
必ずしもそうではありません。2024年のACL論文では、主に英語で学習されたモデルにアラビア語で質問したところ、エジプトの実際の調査回答との整合が悪化しました。逆に、多言語で学習されたモデルにアラビア語で質問すると、米国の調査回答に近づくという逆転も観測されています。2026年の研究では、集計方法によって順位が入れ替わるものの、共通して言えるのは言語を変えるだけより、文化的視点を明示するほうが整合を改善しやすいという点でした。「母語で聞けば現地の文脈になる」は法則ではありません。
Q4. 翻訳の品質を上げれば解決しますか。
翻訳品質の向上は無駄ではありませんが、この問題の中心ではありません。2026年の研究が示したのは、言語だけを変えて生じる変動が人間側の実際の文化差とおおむね直交している——変動は大きいが、方向が現地の実態に近づくとは限らない——ということでした。加えてモデルはオランダ・ドイツ・米国・日本の価値観へ系統的に引き寄せられており、この傾向は別の国を指定してもあまり崩れませんでした。翻訳は出力を変えますが、変える方向まで制御できるわけではありません。
Q5. なぜ日本語で書いた一次情報が、英語の問いで拾われにくいのですか。
複数の段階が重なるためです。まず検索段階で、システムはクエリ言語の文書を優先する傾向があります(49言語ベンチマークで約1.29〜1.64倍)。次に再ランク段階で、2026年のACL論文によれば、既存のリランカーは英語とクエリ言語を系統的に優遇し、他言語で書かれた回答に不可欠な文書を抑圧することがあります。さらに生成段階でも、英語クエリのとき英語ソースを優先的に引用する傾向が報告されています(査読前)。これらが積み重なることで、日本語の一次情報が英語の問いで拾われにくい経路が生じます。ただし「日本企業は不利」と実証されたのではなく、そうなりうる経路が存在するという意味です。
Q6. 無名の日本企業は、英語圏のAIで不利なのですか。
「不利である」と断定できる公開データはありません。ただし、不利になりうる経路を示す査読研究は複数あります。2024年のEMNLP論文は、モデルがグローバルブランドを肯定的な属性と結びつけやすいことを報告しています(ただし実験はすべて英語で実施されました)。COLM 2025の研究は、Global West のエンティティのほうが Global East より当てやすく、この格差は質問の言語を変えてもほとんど埋まらなかったと報告しています。なお、英語ページの新設がこの格差をどう変えるかは、これらの研究では検証されていません。
Q7. hreflang を正しく設定すれば、AIに引用されやすくなりますか。
その効果を裏づける公開エビデンスは、本調査の範囲では確認できませんでした。Google は AI 機能について、追加の要件はなく、新しい機械可読ファイルやマークアップ、特別な構造化データを作る必要はないと明記しています。hreflang 自体は、ロケールごとに別URLを用意する構成とあわせて Google が推奨する国際SEOの手当てであり、正しく設定する価値はあります。ただし、AI回答での引用可否を左右するという意味ではありません。
Q8. Organization スキーマを入れれば、エンティティとして認識されますか。
「認識を保証する」という主張の根拠は確認できませんでした。Google は AI 機能のために特別な schema.org の構造化データを追加する必要はないと明記しています。Organization 構造化データは Google Search が組織情報を理解・識別する助けになりますが、AI回答でのエンティティ認識を保証するという公式根拠は確認できません。
Q9. Wikidata や Wikipedia を編集すれば、AIの回答を修正できますか。
飛躍があります。Wikipedia が多くの市場で最多被引用ドメインであることは、査読前・ベンダー由来のデータが示しています(12言語中11言語で首位)。しかし「よく引用される」ことと「編集すれば出力が変わる」ことの間には距離があります。加えて、自社に関する自己宣伝的な編集は各プロジェクトのコミュニティ方針に反しうるため、実務上も推奨できません。
Q10. 市場ごとに引用元が違うというのは、具体的にどういうことですか。
査読前かつベンダー由来の分析ですが、具体例があります。128ブランド・12市場・13言語・167,551件の引用を分類した2026年の公開分析では、Wikipedia が12言語中11言語で最多被引用ドメインでした。ところがポーランドの国内ブランド46社では最多が YouTube で、4つの人材・キャリア系ポータルが637件の引用を供給し、ポーランド語版 Wikipedia の297件のおよそ2倍でした。ある市場で効く第三者言及の構成が、別の市場でそのまま通用するとは限りません。
Q11. EU AI Act 第50条は、日本企業にも関係しますか。
関係しうる、というのが正確な答えです。同法の透明性義務は2026年8月2日から適用され、欧州委員会は2026年7月20日にガイドラインを採択しています。AI Act は、EU市場にAIシステムを提供する者や、その出力がEU域内で用いられる者に及ぶ設計であり、拠点が域外にあることだけで対象外にはなりません。ただし義務の名宛人は主に提供者と利用実施者で、内容も対話であることの告知やAI生成コンテンツのマーキング等に限られます。該当性は個別の事業内容に即した法務判断が必要です。なお本記事は法的助言ではありません。
Q12. すべての国が、AI生成コンテンツへのラベル表示を義務付けているのですか。
いいえ、誤りです。法的性格が法域ごとに大きく違います。EUの AI Act 第50条は拘束力ある規則で2026年8月2日から適用。中国は2025年9月1日施行の部門規則と強制国家標準で、明示ラベルと暗黙ラベルの両方を求めています。一方、日本のAI推進法は推進・政策枠組み法であり、AI生成コンテンツへの横断的なラベリング義務は本調査の範囲では確認されませんでした。米国のFTC規則は消費者レビューという限定分野の規則で、条文自体はAIに特化していませんが、AI生成の偽レビューには適用されます。
Q13. 訪問者の国や言語で内容を出し分けるページは、AI検索に不利ですか。
「不利」と断定はできませんが、注意が必要な構成です。Google は公式に、locale-adaptive なページはすべてのロケールの内容をクロール・インデックス・ランキングできない可能性があると説明し、理由として Googlebot のデフォルトIPが米国所在に見えること、Accept-Language ヘッダを送らないことを挙げています。ただし米国外のIPからもクロールしており、「米国からしか来ない」わけではありません。Google 自身の推奨は、ロケールごとに別URLを用意し rel="alternate" hreflang で注釈することです。
Q14. 結局、何から始めればよいですか。
まず、指標の定義を揃えることをおすすめします。生成AIの利用率ひとつをとっても、EU統計局は「直近3か月の利用」、Pew は「これまでに利用した経験」を測っており、そのまま足し合わせることはできません。そのうえで、自社について言語と市場を条件として固定した測定を始めることです。同じ問いを日本語と英語で投げ、出てくるかどうかだけでなく、どう語られ、どこから引かれているかまで見ます。日本語版と英語版で違う結果が出たとしても、単発の差だけでは言語による差か実行ごとの変動かは判別できません。上記の条件を揃えて各言語で反復測定し、再現する差だけを言語条件に関連した認知差として評価してください。