Q1. AIの「記憶」とは何ですか。
本記事でいう記憶は、過去の会話などからAIが利用者について得た情報を、会話をまたいで持ち越す機能です。ChatGPT、Gemini、Claudeは、いずれもこの機能を持っています。より広いパーソナライズには、利用者が自分のことを設定に書いておく指示(ChatGPTのカスタム指示など)や、メールや写真などのデータとの連携(GoogleのPersonal Intelligence)も含めます。これは本記事の整理で、各社の製品での用語とは一致しません。名前も範囲も各社で違い、時期によっても変わっています(§1、§2)。
Q2. 記憶があると、同じ問いでも答えは変わりますか。
各社は、利用者の情報が問いに関係するとき、それを反映して答えを合わせるように機能を作っています。Googleは、過去の予約や検索をもとに店を示せる、といった例を挙げています。外から測った報告では、実際の利用者の画面で推薦の顔ぶれがばらついた観測や、履歴を持たせたアカウントで繰り返し推薦されるブランドの一部が入れ替わった観測があります。ただし、その集合の大半は共通だったという観測もあり、記憶だけの効果を切り出した報告は確認できませんでした(§3、§4)。
Q3. 日本でも、これらの機能は使えますか。
機能によって違います。GeminiのアプリのPersonal Intelligenceは、2026年4月14日から日本でも有料プランの個人アカウント向けに提供が始まったと、Googleが日本語で発表しています。AI ModeのPersonal Intelligenceは、2026年5月20日の日本語の発表で、日本を含む約200の国と地域、98の言語へ、有料の契約なしで広げるとされています。一方、AI Modeで「覚えて」「忘れて」と指示できる記憶は、案内のページで米国、英語とされています。Claudeは提供国に日本を挙げています。OpenAIの原文は日本を名指ししておらず、除外や既定でオフとして挙がっているのは欧州などの地域です。Geminiの過去の会話の記憶は、日本での提供を一次の記述で確かめられませんでした(§2)。
Q4. 記憶による答えの違いは、どのくらいの大きさですか。
一つの数字では言えません。英国で四つの製品を比べた査読なしの報告書では、繰り返し推薦されるブランドの顔ぶれの差が、ChatGPTで16.0ポイント、Geminiで33.3ポイント、Perplexityで7.2ポイント(境界上)で、Claudeでは統計的な差が検出されませんでした。同じ報告書で、繰り返し推薦されるブランドの約75%は共通でした。提供元、問い、利用者の状態によって違うと考えるべきです(§4-2、§6)。
Q5. 社内の担当者が自分のアカウントでAIに聞いて、自社が出てきました。安心してよいですか。
その結果だけでは判断できません。記憶が有効なら、その人が過去に話した内容が答えに入りえます。自社について繰り返しAIと話している担当者のアカウントは、一般の利用者とは違う履歴を持っている可能性があり、その履歴が答えをどちらの向きに、どれだけ動かしたかは、その画面だけでは判断できません。また、記憶が無くても答えは揺らぐため、一回の画面からは、記憶による違いと揺らぎによる違いを見分けられません(§7-1)。
Q6. では、ログアウトすれば「本当の答え」が分かりますか。
「誰の記憶も入らない状態での答え」に近づけることはできますが、それは実際の利用者全体の画面の答えではありません。記憶を外しても、地域、言語、モデルの版、提供元の側での変更は残ります。また、報告書では、一時的な会話とアカウントを持たない呼び出しとで、履歴を持つアカウントの推薦を拾える割合が違いました。どの手段で記憶を外したかを記録し、繰り返して測ってください(§8-2、§8-3)。
Q7. 記憶を使わずにAIに聞く方法はありますか。
各社が手段を用意しています。ChatGPTのTemporary Chatは、既定では記憶もカスタム指示も使いませんが、開始時にパーソナライズを選ぶと既存の記憶と指示を使います(2026年8月27日の変更)。GeminiにはTemporary Chat、Claudeにはincognito chatがあり、GeminiのPersonal Intelligenceでは、特定の会話の答えをパーソナライズなしで作り直せます。測るときは、どちらを選んだかを記録し、測る前に製品の現在の設定と案内を確かめてください(§3-3、§8-2)。
Q8. 利用者は、AIに覚えてもらうことを望んでいますか。
パーソナライズを利用の理由に挙げる人がいる一方で、懸念もあります。総務省の調査では、生成AIを使ったことのある日本の回答者の31.6%が、使う理由に「自分の好みや状況に合わせて整理・提案してくれる」を挙げました。同じ調査で、嗜好に沿う答えにより無自覚に判断や考えが偏ることを、二つの回答を合わせて67.7%がリスクだと感じています。米国では、チャットボットを使わない人の54%が、個人の情報の扱いへの心配を大きな理由に挙げています。いずれも、記憶の機能そのものへの期待を直接聞いた数字ではありません(§5)。
Q9. 利用者の記憶に合わせて、自社の情報を変える必要がありますか。
本記事は、そう勧める根拠を持っていません。利用者がAIに何を覚えさせているかは、企業からは見えません。記憶による答えの違いについての観測も、記憶だけの効果を切り出したものではなく、日本語での観測も見つかっていません。まず、決めた状態で自社がどう扱われているかを記録し、ほかの材料と合わせて判断してください(§6、§8)。
Q10. 「ある種類の買い手が聞いたら」の答えを知るにはどうしますか。
外からできる方法の一つは、問いの文面に利用者像を書き添えて聞くことです。問いに利用者像を付けると推薦が変わりうることを示す報告があり、分野で首位のブランドは変わりにくく、中位のブランドほど入れ替わったとしています(ベンダーの未査読のプレプリント)。利用者像に沿った履歴を測る専用のアカウントに積ませる方法もあります。どちらも、実際の利用者の記憶を再現したものではありません。記憶を外した状態の結果とは分けて記録してください(§4-3、§8-5)。
Q11. Search Consoleで、記憶による違いは分かりますか。
分かりません。Search Consoleの生成AIのレポートは、Google検索のAI OverviewsとAI Modeで自社サイトへのリンクが表示された回数を示すもので、利用者が入力した問いや、答えの中で自社がどう語られたかは示しません。利用者の記憶や連携されたデータで答えがどう変わったかも、そこからは分かりません(§7-2)。
Q12. Vaipmの記録は、平均的な利用者の見え方を表していますか。
いいえ。Vaipmは、AI上の認知を、複数のAIへの合計25回のステートレス計測で測定しています。記録が表しているのは、ログインの状態や過去のやりとりを引き継がない、記憶と履歴の影響を外した状態での答えです。特定の利用者の画面での答えでも、利用者全体の平均的な見え方でもありません。この状態を採っているのは、前後や他社と比べるための基準の状態を、一つ決めて固定するための設計です(§8-6、§8-7)。