部門別ユースケース

決算説明会の内容はAIに届いているか|IRのためのAIO・LLMO対策[動画・書き起こし編]

2026-09-01読了目安 20

著者: 株式会社Vaigate(AI上の認知を、複数のAIへの合計25回のステートレス計測で測定するVaipmを運営)

この記事のポイント

決算説明会で話した内容の多くは動画とスライドの中にしかなく、質疑応答は書き起こされなければどこにも残りません。日本IR協議会の第33回調査と東証・金融庁の一次資料をもとに、話した内容とテキストの間にある欠落を棚卸しし、それがAIに届いているかを自社で確かめるための測定の手順まで、IR担当者向けに解説します。

結論サマリー

決算説明会は、上場企業のIR活動の中心にある行事です。しかし、そこで話された内容の多くは、動画とスライドのPDFの中にしか存在しません。質疑応答にいたっては、書き起こされなければどこにも残りません。

決算説明会の内容がAIに届いているかとは、説明会で話された内容に対応するテキストが、取得可能な場所に存在しているかという問題です。 対応するテキストが存在しなければ、少なくともテキストの経路について、その内容が取得・参照される状態にあるかを確認できません。確認できないものは、管理の対象にもなりません。

本稿は「動画をやめるべきだ」という主張ではありません。扱えるのは、話した内容に対応するテキストが、取得可能な場所に存在しているかという一点までです。書き起こしを公開すれば引用がどれだけ増えるかについては、根拠となる公開データを確認できていません。

この記事で分かること

  • 「テキストはあるが取得できない」と「そもそもテキストが無い」が、なぜ別の問題なのか
  • 日本の上場企業のIR活動がどこまでオンライン化し、何がウェブ上に出ているのか(母数つき)
  • 説明会に伴って生まれる情報のうち、何がテキストとして存在し、何が存在しないのか
  • 質疑応答が制度の中でどこに位置し、なぜ管理の主体が曖昧になりやすいのか
  • 決算説明会の資料・動画・書き起こしが、東証の適時開示の一覧でどう扱われているか
  • 書き起こしを公開するときに生じる論点(作成主体・範囲・訂正・英文)
  • 話した内容がAIに届いているかを自社で確かめる手順

対象読者

上場企業のIR担当者、とくに決算説明会をオンラインで開催し、その動画をウェブ上で公開している会社の方を想定しています。IR支援会社に動画の制作・配信を委託している会社も含みます。制度設計を論じる記事ではなく、すでにある発信物を棚卸しするための記事です。個別の法的判断は扱いません。

重要な数字

  • 国内向け決算説明会をオンラインで実施している企業は 73.9%ウェブ上で開示している企業は 73.1%(日本IR協議会 第33回「IR活動の実態調査」、母数はIR実施企業
  • 説明会などの議事録の作成に生成AIを「業務で使用している」又は「業務でトライアルしている」企業は 65.8%(前回の2024年調査では8.1%。母数はIR実施企業

1. 話した内容とテキストの間にある欠落

1-1. 二つの「読まれない」を分ける

AIに読まれないという現象は一つに見えますが、原因は少なくとも二つの層に分かれ、打ち手も違います。

状態原因の例打ち手の方向
形式の層(本稿)そもそもテキストが無い話した内容が音声・映像のままである。図表が画像に埋まっている対応するテキストを作り、置く
取得可能性の層(別稿)テキストはあるが取得できない取得の経路や表示の条件に関わる問題取得の経路を確かめ、整える

この区別が本稿の出発点です。 テキストが無い状態にいくら取得可能性の対策を施しても、取り出すものがありません。逆に、作っても取得できなければ届きません。両方が必要ですが、先に確かめるべきは、そもそも取り出す対象が存在しているかです。

取得可能性の側、すなわちテキストは存在するのに読まれない状態は、IRレーンの別稿(IRサイトの技術構造とAIによる取得を扱う記事)が担当します。本稿ではその一般論に立ち入りません。

1-2. 確かめようがない、という状態

法定開示や適時開示には正解があります。有価証券報告書、決算短信、適時開示は所定の経路で公表され、機械的に取得できます。この点は親記事(生成AIは自社の決算をどう語るか)で扱いました。

問題は、その外側にある情報です。経営者が語った事業の見通し、質疑応答での投資家の関心とそれへの回答、図表に添えられた口頭の補足——これらは公表資料を理解するうえで実質的な役割を果たします。にもかかわらず、対応するテキストが存在しなければ、テキストとして取得・参照される状態にあるかを確認する手段がありません。

重要なのは、「誤って伝わる」のではなく「確かめようがない」という点です。誤りであれば、公表済み資料との突き合わせで検出できます。しかし対応するテキストが無ければ、突き合わせる対象そのものがありません。回答が薄いのか材料が無いのか、外からは区別がつきません。

1-3. 本稿が扱わないこと

扱う範囲を先に明示します。

論点本稿での扱い
AIの回答がどこから情報を引いているか(引用元の構成)広報レーンのAIは自社の何を引用しているかへ送ります
取得の経路や表示の条件に関する一般論IRレーンの技術編(別稿)へ送ります
AI回答と公表資料を突き合わせる照合テストの設計照合テストの実装手順を扱う記事へ送ります
開示の版・訂正・状態の管理/商号・識別子など主体の同定IRレーンの別稿へ送ります

2. 【実態】IRのオンライン化はどこまで進んだか

2-1. 調査の前提(母数を先に置く)

以下の数字はすべて、日本IR協議会の第33回「IR活動の実態調査」(2026年5月公表)によります。2026年1月現在の全株式上場会社4,088社を対象に実施され、948社が回答(回収率23.2%)。うちIR活動を「実施している」との回答は917社・96.7%です。

この調査は設問ごとに母数が異なります。 以下、数字ごとに母数を明記します。異なる母数の数字を合算しないでください。

2-2. オンライン化とウェブ上での開示

項目オンラインで実施ウェブ上で開示
国内向け決算説明会73.9%(前回71.3%)73.1%(前回69.0%)
国内のアナリスト・投資家との面談71.9%(同70.9%)
海外のアナリスト・投資家との面談58.3%(同56.4%)
国内向け個人投資家向け説明会40.9%(同34.7%)38.6%(同31.6%)
国内向け経営方針・経営戦略・経営計画説明会31.1%(同26.5%)

母数はいずれもIR実施企業、前回は2024年調査です。ウェブ上での開示は全選択肢で前回より増加しました。

2-3. 自社サイトに置かれているもの

開示資料和文英文
決算短信99.1%(前回98.7%)74.1%(同70.0%)
有価証券報告書などの法定開示資料97.4%(同97.8%)
説明会資料(決算説明資料、事業説明会資料など)93.4%(同93.2%)68.0%(同61.8%)
経営トップのメッセージ92.4%(同92.7%)68.6%(同66.8%)

母数は「投資家向け」又は「IR」と明示したウェブサイトが「ある」と回答した企業です。

ここに本稿の論点が現れます。説明会「資料」は9割超が自社サイトに置かれています。しかし資料は、話した内容と同じではありません。 スライドは骨格であり、肉付けする説明と質疑応答は資料の外にあります。

2-4. 議事録への生成AI利用は急速に広がった

同じ調査は、IR関連業務での生成AIの利用状況も聞いています。母数はIR実施企業、値は「業務で使用している」又は「業務でトライアルしている」と回答した割合です。

業務今回前回(2024年調査)
業務と関連した情報収集のための資料要約や整理80.5%13.8%
説明会などの議事録の作成65.8%8.1%
業務連絡(eメールなど)などの下書き65.1%8.7%
英文開示資料の作成(翻訳など)63.7%16.0%
説明会や報道用などのドキュメントの作成51.3%5.5%
説明会や報道用などの画像や動画の作成19.1%1.7%

議事録の作成が65.8%です。 前回調査の8.1%から57.7ポイントの増加でした。議事録作成への生成AIの利用・試行が急速に広がっていることを示しています。

ただし、この数字が示すのはそこまでです。 公開できる水準の書き起こしが社内に存在する割合や、全ての説明会がテキスト化されている割合は、この設問では測られていません。書けるのは、すでに議事録を作成している企業では、それを公開するかどうかが次の論点になるという一段です。

なお、生成AI導入の課題では「情報の正確性(いわゆるハルシネーション)」が77.2%で最上位でした(母数はIR実施企業)。自動生成の議事録をそのまま公開できるとは限らない、という実務感覚と整合します。

2-5. 動画の作成・配信を外部に委託する企業がある

IR支援会社の利用状況も同じ調査にあります(母数はIR実施企業)。利用している企業は81.9%(前回79.9%)。現在利用中のサービスのうち「動画の作成・配信」は41.0%(同38.0%)、今後利用したいサービスとしても32.7%(同30.5%)が挙がっています。調査の総括は、これを現時点では生成AIでの対応が難しい業務と整理しています。

ここに構造が見えます。 動画の作成・配信に外部サービスを利用する企業があり、議事録には社内で生成AIが使われています。外部委託の動画と社内作成の議事録が別工程になっている企業では、担当者も成果物の置き場所も分かれます。 欠落が生じやすいのは、この分業の継ぎ目です。

2-6. 重い説明ほど、説明会資料に置かれている

同じ調査から、もう一つ。東証が要請した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の取組みをどこに記載しているかを聞いた設問では、「投資家向け決算説明会資料」が80.7%(前回78.3%)で最大でした。コーポレートガバナンス報告書68.0%、統合報告書58.8%、IRサイト55.3%と続きます。母数は、当該取組みの開示について「的確に対応している」「対応しているが改善の余地がある」「対応は形式的なものにとどまっている」のいずれかを回答した企業です。

東証の要請への対応という説明を、企業が最も多く置いている媒体が決算説明会資料であるということです。そしてその資料に添えられた口頭の説明は、書き起こされなければ残りません。

3. テキストになっていない情報の棚卸し

決算説明会を一度開催すると、複数の形式の情報が同時に生まれます。形式ごとに分解します。

#生まれるもの主な形式テキストとして存在するか典型的な所在
1説明会資料(スライド)PDF本文は存在。図表が画像であればその中の数値は存在しない自社IRサイト
2プレゼンテーション部分の発言音声・映像書き起こさなければ存在しない動画のみ
3質疑応答音声・映像同上(§4)動画のみ、または記録なし
4動画そのもの映像タイトル・説明文・章立てはテキストにできる自社サイト/動画プラットフォーム
5要旨・サマリーテキスト作れば存在する自社IRサイト
6SNSでの発信テキスト存在するが自社の管理外(§7)各プラットフォーム
7社内議事録テキスト存在するが社外に出ていない(§2-4)社内

3-1. 資料PDFの中の「存在しない数値」

1番には注意が必要です。PDFで公開していても、要点が画像で作られていれば、その中の数値はテキストとして存在しません。 公開されているのに、肝心の数値だけが欠けます。確認方法は §8-5 です。

3-2. 動画ページに付随するテキスト

4番については、Googleの公式ドキュメントが参考になります。生成AI機能に関する最適化ガイド(2026年7月10日更新)は、画像や動画をテキストのコンテンツを支えるものと位置づけています。

動画に関する推奨事項のドキュメント(2025年12月18日更新)は、動画が動画向け機能の対象になる条件として、その動画を視聴することが主目的であるページがインデックスされていることを挙げ、複数の動画を同等に並べた一覧ページをこの意味のページに当たらない例としています。加えて、ページのタイトルと説明文を動画ごとに固有にすること、重要な地点を構造化データや説明文中のタイムスタンプで示せることを説明しています。

ここから言えるのは、次の一段までです。 動画に付随して置けるテキスト——ページのタイトル、説明文、章立て——は存在し、公式ドキュメントも整備を推奨しています。しかし、それらは動画の中で話された内容そのものではありません。 章立てが充実していても、その章で何を述べたかはテキストになっていません。

なお、本稿で確認した範囲では、当該ドキュメントに字幕や書き起こしをインデックスの条件として挙げる記述は確認できませんでした。 本稿は「字幕を付ければ読まれる」とは書きません。

3-3. 棚卸しの単位は「イベント」ではなく「言った内容」

実務上の落とし穴は、棚卸しの単位を誤ることです。「決算説明会のページはある」「動画は公開している」という単位では、欠落は見えません。確認すべき単位は、そこで述べた個々の内容です。 進め方は §8-4 で示します。

4. 質疑応答という空白

4-1. 制度の網から外れる場所にある

質疑応答には、投資家が何を気にしているかと、経営陣がどう答えたかが同時に現れます。にもかかわらず、この部分は制度上、開示の義務が明示された領域の外にあります。

東証が掲げる適時開示の一覧に、質疑応答という項目はありません(§5-1)。フェア・ディスクロージャー・ルールも、説明会の内容の公開を一律に求める規定ではありません(§5-2)。

ここで形式と内容を分けてください。 一律に公開義務の対象でないのは、質疑応答の全文や書き起こしという形式です。そこで重要情報が伝達された場合の公表の要否は、別途判断されます。 形式について義務がないから管理の対象になりにくく、管理の対象でないから主体が曖昧になります。

ただし、制度と無関係ではありません。このルールの細目を定める内閣府令は、売買等を行う蓋然性が高い者の一つとして、上場会社等の運営・業務・財産に関する情報を特定の投資者等に提供することを目的とした会合の出席者を挙げ、その会合に出席している間に限る、としています。つまりこの要件を満たす説明会の出席者は、その場にいる間、「取引関係者」に含まれうるということです。

一方、金融庁のガイドラインは、事業別説明会で一般に提供されるような、他の情報と組み合わせれば投資判断に活用できるがそれだけでは直ちに投資判断に影響を及ぼすとはいえない情報(いわゆるモザイク情報)について、それ自体ではこのルールの対象となる情報に該当しないと考えられる、という整理を示しています。

この二つを重ねると、質疑応答の位置が見えます。 出席者は取引関係者に当たりうる。しかし語られる内容の多くは、それ自体では重要情報に当たらないと整理されうる。結果として質疑応答は、開示義務の対象ではないが、投資判断には使われるという中間地帯にあります。

なお、このガイドラインは、法令に関する一般的な解釈を示すものであり、個別事案への適用の有無を回答するものではなく、司法判断を拘束するものでもないことを、自ら冒頭で明示しています。個別の当てはめは、必ず自社の法務部門や顧問弁護士にご確認ください。

4-2. アクセスの範囲は、昔から企業の裁量だった

「誰がその場に居合わせるか」を企業が決められる構造は、新しくありません。会計学の査読誌に載った2003年の研究(Bushee, Matsumoto, Miller, *Journal of Accounting and Economics* 34巻)は、電話会議へのリアルタイムのアクセスを制限なく提供するか(オープンな会議とするか)の決定要因と効果を検討し、その判断が投資家構成と財務情報の複雑さにある程度関連していたこと、オープンな会議が通話期間中の小口取引の増加や価格変動の大きさと関連していたことを報告しています。

この研究をそのまま現在に当てはめないでください。 対象は2000年前後の米国企業で、リアルタイムの音声アクセスの話です。AIの研究ではなく、報告されているのは関連であって因果関係の証明ではありません。

それでも引き継がれている構造があります。誰に届くかを決めているのは、制度ではなく企業側の運用であるという点です。かつては電話回線の開放が争点でした。いまは、話した内容がテキストとして残り取得可能な場所に置かれるかどうかが、同じ位置にあります。

4-3. 東証自身が「格差」と呼んでいた

2019年10月24日、東京証券取引所は、上場企業の投資家向けイベントのトランスクリプト配信に関する実証実験の開始を公表しました。その公表文は背景をこう説明しています。欧米では長年、投資家向けイベントのトランスクリプトがグローバルに配信され、透明性と公平性の高い情報提供がなされている。一方、日本を含むアジアではこうした配信が進んでおらず、イベントの参加者とそれ以外の投資家との間に情報の格差が生じている——。

★これは2019年時点の公表文であり、現在の東証の見解として引用することはできません。しかし、「その場に居合わせた人だけが知っている」状態が課題と認識されたという事実は残ります。

かつて格差の相手はその場にいなかった投資家でした。その投資家が事後にたどる迂回路は、報道記事や第三者の要約です。自社の側に対応するテキストが無ければ、記録は迂回路の側にしか残りません。 誰が、あるいは何がその記録をたどるかにかかわらず、参照されうるのは自社が語った内容ではなく、第三者が要約した内容になります。

4-4. 研究の側にも同じ偏りがある

決算説明会と大規模言語モデルに関する、査読誌に掲載された総説(Bongale, Shrivastava、*Discover Artificial Intelligence* 第6巻688号、2026年、オープンアクセス)は、この分野の研究が米国市場に集中していると指摘し、理由として開示の標準化と、トランスクリプトのデータが比較的入手しやすいことを挙げています。

★これは研究の分布についての記述であり、AIの回答性能の話ではありません。それでも示唆はあります。この研究領域では、入手しやすいトランスクリプトが、研究対象の形成を支える条件の一つになっています。

5. 【制度】どこまでが開示で、どこからが任意か

5-1. 適時開示の一覧に、何が載っているか

東京証券取引所は「適時開示が求められる会社情報」を公表しています(2026年7月10日現在。確認日2026年9月1日)。区分と項目数は次のとおりです。

区分項目数
上場会社の決定事実39項目
上場会社の発生事実29項目
上場会社の決算情報3種類(決算短信/第2四半期(中間期)決算短信/第1・第3四半期決算短信)
上場会社の業績予想、配当予想の修正等2種類
その他の情報8項目
子会社等の情報決定事実15項目/発生事実15項目/業績予想の修正等1項目

決算情報として掲げられているのは決算短信と四半期の決算短信です。決算説明会の資料・動画・書き起こしを名指しした項目は、この一覧には置かれていません。

ただし、決定事実の39番目と発生事実の29番目には、上場会社の運営・業務・財産等に関する重要な事項・事実という包括的な項目があります。個別の内容が該当するかは事案ごとの判断であり、本稿は判断を示しません。

東証がAI上の認知の測定や管理を求めている、とは書けません。 IR体制の整備は企業行動規範上の義務であり、その整備状況はコーポレート・ガバナンスに関する報告書での開示が必要とされています。しかしAI上の自社の認知の測定・管理は義務ではありません。 本稿が扱うのは、既存のIR体制の枠組みの中で、話した内容とテキストの間の欠落をどこまで管理の対象とみなすか、という一段です。

5-2. 制度の性格を混ぜない

対象性格出所
適時開示制度・TDnet・企業行動規範取引所規則(国の法令そのものではない)東京証券取引所
フェア・ディスクロージャー・ルール法律(金融商品取引法第27条の36以下・2018年4月1日施行)金融商品取引法
取引関係者の範囲・公表が困難な場合等の細目内閣府令重要情報の公表に関する内閣府令
上記の解釈の留意事項金融庁の一般的な解釈(司法判断を拘束しない)フェア・ディスクロージャー・ルールガイドライン
決算説明会の開催・資料公開・動画公開・書き起こし公開という形式一覧に項目として置かれていない。ただし、そこで伝達された内容の扱いは別途判断される

金融庁のガイドラインは、このルールの趣旨として投資者への公平な情報開示の確保を挙げ、適用を受ける上場会社等には積極的に情報開示を行うことが期待されているとしています。★これは「期待」であり、説明会の内容の公開を義務づける規定ではありません。

5-3. 東証の側にも、テキストを置く経路は用意されている

制度の周辺には実務上の経路があります。以下はいずれも2026年9月1日の確認です。

東証IRムービー・スクエア(ページ更新2026年8月28日)。東京証券取引所が、上場会社の会社紹介や社長メッセージなどの投資者向け動画を、動画プラットフォーム上の東証専用チャンネルで配信するサービスです。動画は「事業紹介」「会社紹介」「決算説明」「社長メッセージ」に区分され、上場会社向けの案内では利用は無料と説明されています。

イベントトランスクリプト提供サービス(ページ更新2026年4月1日)。JPX総研のグループ会社が、上場会社とのパートナー契約に基づき決算説明会・ESG説明会・中期経営計画説明会・株主総会等に参加し、網羅的な書き起こし記事を日本語等のローカル言語および英語で作成するサービスです。提供データは書き起こし記事(PDF、TXT、XML、JSON)とイベント音源(mp3)。2026年4月時点で、日本市場において約1,300社以上の企業イベントを配信していると説明されています。投資家向けには「有料情報」の区分に置かれています。

上場会社にとって重要なのは、次の記述です。 作成された書き起こし記事は上場会社向けのポータルサイトを通じて提供され、提供後はコーポレートウェブサイトへの掲載(編集・修正は自由)や、機関投資家との個別ミーティングでの配布が可能とされています。利用には契約が必要です。

つまり、話した内容をテキストにして自社サイトに置く経路は、取引所グループの側にも用意されています。 実際、日本取引所グループ自身のIRサイトでは、自社の決算説明会について説明資料と書き起こし(全文)が並べて提供されています。

★ただし、上場会社側の費用や契約条件は、本稿で確認した範囲では確認できませんでした(§9)。

6. 書き起こしを出すときに生じる論点

「書き起こしを出しましょう」で終わる話ではありません。実際に出すとなると判断が要ります。以下に論点を並べます。どれが正しいかは本稿では決めません。

6-1. 誰が作るか

作成主体特徴留意点
自社で作成範囲と表現を自社で決められる工数がかかる。生成AIで下書きを作るなら正確性の確認工程が必要(§2-4の77.2%)
外部サービスに委託日英の作成まで含めて委託できる。自社サイトへの掲載も可能(§5-3)契約が必要。イベントの範囲は契約による
社内議事録を転用議事録を作成している企業では、素材がすでにある(§2-4)社内向けの記録は社外公開を前提に書かれていない。そのままは使えない

6-2. どこまで載せるか

全文にするか、要旨にするかは実質的な選択です。全文はその場の言い回しを残し、言い淀みも不正確な表現も含みます。要旨にすると、何を残し何を落とすかを決めた主体が自社になります。

★どちらが優れているとは書けません。書けるのは、どちらを選ぶかによって、AIが読みうるテキストの範囲が変わるということまでです。要旨を選ぶ場合、少なくとも「何を落としたか」を自社で把握しておく必要があります。

6-3. 誤りが見つかったときにどうするか

書き起こしを公開すれば、後から誤りが見つかることがあります。

訂正にあたって未公表の情報を付け加える場合は、その情報が重要情報に当たるか、公表が必要かを、自社の法務部門等と確認してください。 重要情報に該当する場合は、フェア・ディスクロージャー・ルールに沿った対応が必要になります。AIの回答が誤っているからといって、確認を経ずに未公表情報を持ち出すことは避けてください。

公開後に版が変わることの管理(どれが最新か、いつ時点か)は、IRレーンの別稿(開示の版と状態の管理を扱う記事)の領分です。

6-4. フェア・ディスクロージャー上の位置づけ

金融庁のガイドラインは、伝達した情報について取引関係者から重要情報に該当するのではないかという指摘を受けたときの対応として、対話を通じて、①指摘に同意する場合は速やかに公表する、②該当しないとの結論に至った場合は公表しない、③該当するが公表が適切でない場合は、公表できるようになるまでの間に限って守秘義務と売買等を行わない義務を負ってもらう、といった対応が考えられるとしています。

意図せぬ伝達についても内閣府令に定めがあり、ガイドラインはその例として、伝達する予定のなかった重要情報を役員等がたまたま話の流れで伝達した場合を挙げています。

ここから読み取れるのは、次のことです。 制度が想定しているのは「重要情報が伝わったかどうか」であって、「説明会の内容を全て公開したかどうか」ではありません。書き起こしを公開しないことが、それ自体でこのルールに違反するとは書けません。 逆に、質疑応答で意図せず重要な内容に踏み込んだ場合は、書き起こしの有無とは無関係に公表の要否を判断する必要があります。

その意味で、書き起こし(または議事録)を作ること自体に、公開するかどうかとは別の実務上の価値があります。「何を話したか」を後から確認・照合できる記録が残るからです。

6-5. 英文をどうするか

説明会資料の英文開示は68.0%(前回61.8%。母数は「投資家向け」又は「IR」と明示したウェブサイトが「ある」と回答した企業)。§5-3の外部サービスは日英の双方で書き起こし記事を作成します。

英文を出す場合の論点は、二つの公式情報があるときに、範囲・時点・数値・要約の内容がずれていないかに絞られます。日本語と英語でAIの回答がどう変わるかは、クロスボーダーを扱う別レーンの領分です。

7. SNSに書いた内容は、どこに残るのか

日本IR協議会の第33回調査によれば、SNSをIRに活用している企業は28.9%(前回24.6%、前々回14.9%)、検討している企業が13.9%(同11.6%)です。母数は「投資家向け」又は「IR」と明示したウェブサイトが「ある」と回答した企業です。

活用している媒体を聞いた設問(母数は「活用している」又は「活用することを検討している」と回答した企業)では、動画プラットフォームが51.2%(同54.6%)、Xが36.6%(同33.1%)、Facebookが17.1%(同18.1%)でした。

7-1. 自社の外に置かれた内容

SNSに書いた内容の特徴は明快です。自社が管理していない場所にあります。 §5-3の東証のサービスも、配信の場は動画プラットフォーム上です。

表示条件・取得の可否・保存の期間は各プラットフォームの規約と技術に依存し、企業側が制御できる範囲は限られます。投稿した内容が、いつまで、どのような形で参照可能であり続けるかは、企業の意思では決まりません。

7-2. 書けるのはここまで

★本稿が書けるのは、プラットフォームに依存する、という一段までです。どのプラットフォームの内容がAIの回答にどれだけ現れるかは、広報レーンのAIは自社の何を引用しているかが扱います。

実務として確かめられるのは一点です。SNSに書いた内容に対応するテキストが、自社サイトにも存在しているか。 存在すれば、自社の管理下に参照可能な版が一つあります。存在しなければ、その内容は自社の管理外にしかありません。

8. 【測定】話した内容がAIに届いているかを確かめる

ここからが本稿の中核です。ただし、AI回答と公表資料を突き合わせる照合テストの一般的な設計——正解表の列、記録項目、指標の定義——は照合テストの実装手順を扱う記事の領分です。本節は「話した内容がテキストになっているか」に固有の確かめ方に絞ります。

8-1. 出発点を確認する

日本IR協議会の第33回調査で、IR活動の効果測定の指標として「説明会へのアナリスト・投資家の参加人数」を挙げた企業は51.1%(前回47.3%。母数はIR実施企業)。同調査は、上位6つ以外の選択肢がいずれも30%を下回り、貢献度の測定の難しさが浮き彫りになっている、と整理しています。

説明会は、参加人数で測られています。 自然な指標ですが、これはその場にいなかった相手に何が届いたかを測りません。話した内容が事後にどこまで参照可能になったかは、参加人数からは分かりません。

8-2. 質問を三つの層に分けて作る

本節の核となる手順です。説明会で話した内容を、テキストとしての所在によって三層に分けます。

内容の例テキストの所在この層で分かること
層A資料のスライドに文字として書いてあること資料PDF(公開済み)公開済みテキストが読まれているか
層B話したが、資料には文字として書いていないこと(数値の背景、前提、見通しの根拠)動画のみ、または書き起こし話した内容が届いているか
層C質疑応答の場で出た論点記録がなければどこにもないその場限りの内容の扱い

各層から質問を作ります。層Aから3〜5問、層Bから3〜5問、層Cから2〜3問。質問文は、その内容を知りたい投資家が実際に使いそうな言い回しにします。 社内用語や自社だけの略称では、回答が出ないのが当然になり、測定になりません。

★層Cについては、あらかじめ「回答があった場合の解釈」を決めておいてください。 どこにも記録がないはずの内容と整合する回答が出たら、まず誤答や推測でないかを確かめ、そのうえで引用URLを確認します(§8-6)。自社以外に記録が存在していたのなら、それは発見であって成果ではありません。

8-3. 回答がどの層まで届いているかを読む

回答を三つに分類します。

  1. 答えられない(該当する情報を持っていない旨の回答、または一般論に終始する回答)
  2. 層Aの範囲で答える(資料に書いてある範囲の内容だけを述べる)
  3. 層B・層Cに踏み込んで答える(資料の外にある内容に触れる)

「答えられない」と「誤って答える」を必ず分けてください。 前者はテキストが存在しないか届いていない状態、後者は別の情報源から誤った内容を取り込んでいる状態で、打ち手が違います。 前者はテキストを作る話、後者は公表済み資料との突き合わせの話(親記事の領分)です。

層Aで止まっているなら、それ自体は失敗ではありません。層A相当の内容までは回答に現れているということです(資料そのものが参照されたかは§8-6で確認します)。問題になるのは、層Bと層Cの内容が投資判断上重要であるにもかかわらず、どこにもテキストが存在しない場合です。

8-4. 「話した内容」の棚卸し表を作る

測定と並行して自社側の在庫を確認します。イベント単位ではなく内容単位で作ります。

記録する内容
イベントいつの、どの説明会か
内容述べた個々の内容(一行で書ける単位まで分解する)
A/B/C(§8-2の区分)
形式スライド本文/スライド内の図表/音声・映像/テキスト
所在自社サイトのURL/動画プラットフォーム/社内のみ/どこにもない
テキストの有無あり/画像の中/なし
公開の有無公開済み/社内のみ/未作成

この表の目的は、欠落の所在を見えるようにすることです。 「所在=どこにもない」かつ「層=B以上」の行が、本稿の指摘してきた欠落です。埋めるかどうかは、内容の重要度と§6の論点を踏まえた経営判断です。

§2-4を思い出してください。 議事録をすでに作成している企業では、「公開の有無=社内のみ」の行が並ぶことがあります。その場合、次の論点は作成工程ではなく公開の判断です。

8-5. スライド内の図表が画像になっていないか

資料PDFを公開していても、要点が画像に埋まっていることがあります。確認は単純です。ページ単位ではなく、数値単位で見ます。

公開しているPDFをブラウザやビューアで開き、図表の中の数値を範囲選択してコピーしてみてください。 選択できなければ、少なくともそのビューア上では、選択可能なテキストとして確認できません。セグメント別業績、中期経営計画の進捗、資本コストや資本収益性に関する図——投資家の関心が集まる部分ほど、作図の都合で画像になっていることがあります。

★§2-6のとおり、東証の要請への対応を記載する媒体として最も多く選ばれているのは決算説明会資料です。その説明が画像として埋め込まれていないかを確認する価値があります。

なお、テキストが存在しても取得されるとは限りません。取得の経路はIRレーンの技術編(別稿)の領分です。ここで確認しているのは、取り出す対象が存在しているかという前段だけです。

8-6. 回答が引用したURLがどこを指しているか

AIの回答に出典のURLが示されたら、その行き先を記録します。

行き先読み取れること
自社の書き起こし・要旨のページ話した内容に対応するテキストが参照されている
自社の資料PDF層Aの範囲で参照されている
自社の動画ページページは参照されているが、内容がテキストであるとは限らない
自社サイトの別ページ(過年度ページ等)意図した版が参照されていない可能性
第三者の記事のみ自社側に対応するテキストが無いか、届いていない

「第三者の記事のみ」が続く場合が、本稿の扱ってきた状態です。 §4-3のとおり、話した内容が自社の側でテキストになっていなければ、参照されるのは第三者が要約した内容になります。

★ただし、どの種類の情報源が全体としてどれだけ引用されるかという構成の話は扱いません。 AIは自社の何を引用しているかの領分です。ここで見ているのは、自社の話した内容に対応するテキストが参照経路に乗っているか、という自社側の話です。

8-7. 再計測のタイミングを、イベントに紐づける

一度の測定では何も分かりません。同じ質問を同じ条件で、決まったタイミングで繰り返します。

  • 決算説明会の開催前(前期の内容がどう語られているか)
  • 決算説明会の直後
  • 資料PDFの公開後
  • 動画の公開後
  • 書き起こしまたは要旨の公開後(公開する場合)
  • その後、一定期間をおいて

「書き起こしを公開すれば引用が何%増える」とは書けません。 そのような効果を示す公開データを本稿では確認できませんでした(§9)。書けるのは、公開の前後で観測し、何が変わったかを記録する手順までです。観測された変化が公開によるものかは、他の要因(決算内容、報道量、市況)と分離できません。

8-8. 何回、どこに対して測るか

単一のモデルへの一度の質問の回答を、恒常的な認知とみなすことはできません。同じ質問でも実行ごとに回答は揺れ、モデルによって傾向も異なります。前の会話が残らない状態で、複数回、複数のAIに対して測る必要があります。

Vaipm はAI上の認知を、複数のAIへの合計25回のステートレス計測で測定している。

これは研究から導かれた最適値ではなく、Vaipm の運用設計である。

回数と対象の設計は、測りたいものによって変わります。重要なのは条件を固定して繰り返すことであり、特定の数値そのものではありません。

8-9. 測るときに気をつけること

やることやらないこと
質問を層A・B・Cに分けて作る層を分けずに「自社について」と聞く
「答えられない」と「誤って答える」を分けて記録する両者をまとめて「精度が低い」とする
引用URLの行き先を記録し、イベントに紐づけて再計測する引用の有無だけを数え、思い立ったときに測る
公開の前後を観測し、変化を記録する変化を公開の効果として説明する
棚卸し表で欠落の所在を可視化する露出量を目標値にする

★最後の行について。AI上の露出量をIRの正式な指標として推奨した規制当局や職業団体の一次資料は、本稿で確認した範囲では確認できませんでした。 露出量ではなく、話した内容のどの層まで届いているか、回答が何を引用しているかを見るほうが実務に適していると考えます(本稿の推論です)。

9. 本稿で確認できなかったこと

本稿の主張を正しく使っていただくため、確認できなかった項目を明示します。他の資料で断定されていたら、根拠をご確認ください。

項目本稿での扱い
主要なAIサービスが動画・音声をどう扱うか各サービスの取得・処理の仕様を、本稿で確認した範囲では確認できなかった。「AIは動画を読めない」とも「読める」とも書かない
書き起こしを公開している企業の割合日本IR協議会 第33回に該当する設問がない。数字を書かない
書き起こしの公開がAI回答に与える影響の定量値前後を比較した公開実験を確認できなかった
字幕・書き起こしを動画のインデックスの条件とする公式の記述本稿が確認した公式ドキュメントには確認できなかった
質疑応答の公開の有無と、資本コストや株価との因果因果関係は確認できなかった
イベントトランスクリプト提供サービスの上場会社側の費用・契約条件公開されておらず、確認できなかった
東証IRムービー・スクエアの掲載社数・掲載基準本稿で確認した範囲では確認できなかった
AI上の露出量をIRの正式な指標として推奨する当局・団体のガイダンス本稿で確認した範囲では確認できなかった

10. よくある質問

Q1. 動画の公開をやめて、書き起こしだけにすべきですか。

そうは書けません。動画には表情や口調を含めて伝わるものがあり、視聴を前提とする投資家もいます。本稿が指摘するのは、話した内容に対応するテキストが取得可能な場所に存在しているかという点です。両立できます。

Q2. AIは動画の内容を理解できないのですか。

本稿は断定しません。主要なAIサービスが動画や音声をどう扱うかの仕様は公開されておらず、一次の材料を確認できていません。確かめられるのは、テキストとして存在していれば、それが参照されているかを観測できるという一点です。

Q3. 資料PDFを公開していれば十分ではありませんか。

資料は話した内容と同じではありません。資料に書いていない前提や背景、質疑応答で出た論点は資料の外にあります。加えて、図表が画像であれば、その数値は選択可能なテキストとして確認できません(確認方法は§8-5)。

Q4. 決算説明会の書き起こしを公開する義務はありますか。

東証が掲げる適時開示の一覧に、決算説明会の資料・動画・書き起こしを名指しした項目は置かれていません(2026年7月10日現在)。フェア・ディスクロージャー・ルールも、説明会の内容の公開を一律に義務づける規定ではありません。ただしこれは形式の話です。そこで重要情報が伝達された場合の公表の要否は、別途判断されます。

Q5. 書き起こしを出すと、フェア・ディスクロージャー上の問題が生じませんか。

このルールが規律するのは重要情報の伝達と公表であり、説明会の内容の公開そのものを禁じる規定ではありません。むしろ、意図せず重要な内容に踏み込んだ場合の公表の要否を判断するうえで、何を話したかを後から確認できる記録には実務上の価値があります。個別の判断は法務部門・顧問弁護士にご確認ください。

Q6. 全文と要旨、どちらがよいですか。

本稿では決めません。全文はその場の言い回しを残し、要旨は何を残すかを自社が決めます。選択によってAIが読みうるテキストの範囲が変わります。要旨を選ぶなら、何を落としたかを把握しておくことをおすすめします。

Q7. 議事録は社内で作っています。それを出せばよいのですか。

そのままでは使えません。社内向けの議事録は社外公開を前提に書かれていないためです。ただし議事録作成への生成AI利用・試行は広がっています(第33回調査で65.8%。母数はIR実施企業)。すでに議事録を作成している企業では、次の論点は作成工程ではなく公開の判断になります。

Q8. 外部サービスに書き起こしを委託した場合、自社サイトに載せられますか。

JPX総研のグループ会社が提供するイベントトランスクリプト提供サービスでは、書き起こし記事が上場会社向けポータルを通じて提供され、提供後はコーポレートウェブサイトへの掲載(編集・修正は自由)が可能と説明されています(2026年9月1日確認)。契約が必要です。

Q9. 書き起こしを公開すると、AIに引用される回数は増えますか。

そのような効果を示す公開データを本稿では確認できませんでした。書けるのは、公開の前後で観測し、何が変わったかを記録するという手順までです。観測された変化を公開の効果として説明することはできません。

Q10. 何から始めればよいですか。

直近の決算説明会一回分について、§8-4の棚卸し表を作ることをおすすめします。述べた内容を一行単位に分解し、テキストの所在を埋めるだけです。「どこにもない」の行が、本稿の指摘してきた欠落です。そこから§8-2の三層の質問を作ります。

11. まとめ

決算説明会は上場企業のIR活動の中心にあり、東証の要請への対応を記載する媒体としても最も多く選ばれています(第33回調査で80.7%)。オンライン化も、ウェブ上での開示も進みました。

それでも、話した内容とテキストの間には欠落が残ります。 プレゼンテーションの補足も質疑応答も、書き起こされなければ音声と映像の中にしかありません。少なくともテキストの経路について、その内容が取得・参照される状態にあるかを確認できません。

一方で、手がかりはあります。議事録作成への生成AIの利用・試行は広がり(65.8%。母数はIR実施企業)、書き起こしを自社サイトに載せる経路は取引所グループの側にも用意されています。すでに議事録を作成している企業で次に問われるのは、棚卸しと公開の判断です。

本稿の提案は単純です。イベント単位ではなく内容単位で棚卸しし、テキストの所在を確認し、三層に分けた質問でどの層まで届いているかを観測してください。 その先——何をどこまで公開するか——は、内容の重要度と自社の体制を踏まえた経営判断であり、本稿が決めることではありません。

AI上の認知を継続的に管理する考え方の全体像は生成AIは自社の決算をどう語るか、公表資料との突き合わせを実装する手順は照合テストの実装手順を扱う記事をご覧ください。

出典一覧

出典確認日: 2026年9月1日

一次情報・公式

  1. 日本IR協議会「第33回『IR活動の実態調査』結果概要」(2026年5月公表。2026年1月現在の全株式上場会社4,088社を対象、回答948社、回収率23.2%)

https://www.jira.or.jp/download/survey/202605_summary.pdf

  1. 日本IR協議会「調査・研究」(調査概要)

https://www.jira.or.jp/activity/research.html

  1. 東京証券取引所「適時開示が求められる会社情報」(ページ更新2026年7月3日/内容は2026年7月10日現在)

https://www.jpx.co.jp/equities/listing/disclosure/info/

  1. 日本取引所グループ「東証IRムービー・スクエア」(ページ更新2026年8月28日)

https://www.jpx.co.jp/listing/ir-clips/ir-movie/index.html

  1. 日本取引所グループ「イベントトランスクリプト提供サービス」(ページ更新2026年4月1日)

https://www.jpx.co.jp/markets/paid-info-listing/transcripts/index.html

  1. 東京証券取引所 上場会社向けナビゲーションシステム「IR業務効率化のためのサービス」

https://faq.jpx.co.jp/disclo/tse/web/knowledge8521.html

  1. 東京証券取引所 上場会社向けナビゲーションシステム「東証IRムービー・スクエア」

https://faq.jpx.co.jp/disclo/tse/web/knowledge6989.html

  1. 日本取引所グループ「SCRIPTS Asiaと東京証券取引所、上場企業による投資家向けイベントのトランスクリプトの配信に関する実証実験を開始」(2019年10月24日)

https://www.jpx.co.jp/corporate/news/news-releases/0060/20191024-02.html

  1. 日本取引所グループ「イベントトランスクリプト提供サービスの開始について」(2020年4月3日)

https://www.jpx.co.jp/corporate/news/news-releases/0060/20200403-01.html

  1. 日本取引所グループ「IR説明会」(同社自身の説明資料と書き起こし全文の公開例)

https://www.jpx.co.jp/corporate/investor-relations/ir-library/events/index.html

  1. 日本取引所グループ「上場会社の方」(上場会社向けサービス一覧)

https://www.jpx.co.jp/listed-companies/

  1. 金融庁総務企画局「金融商品取引法第27条の36の規定に関する留意事項について(フェア・ディスクロージャー・ルールガイドライン)」(平成30年4月1日制定)

https://www.fsa.go.jp/common/law/kaiji/20180206-2.pdf

  1. 「金融商品取引法第二章の六の規定による重要情報の公表に関する内閣府令」(日本法令外国語訳データベースシステム)

https://www.japaneselawtranslation.go.jp/ja/laws/view/3431

  1. 日本取引所グループ「IR体制の整備」

https://www.jpx.co.jp/equities/listing/investor-relations/index.html

  1. Google Search Central「Optimizing your website for generative AI features on Google Search」(2026年7月10日更新)

https://developers.google.com/search/docs/fundamentals/ai-optimization-guide

  1. Google Search Central「Video SEO best practices」(2025年12月18日更新)

https://developers.google.com/search/docs/appearance/video

  1. Google Search Central「AI Features and Your Website」

https://developers.google.com/search/docs/appearance/ai-features

査読を経た研究

  1. Bushee, B. J., Matsumoto, D. A., & Miller, G. S. (2003). Open versus closed conference calls: the determinants and effects of broadening access to disclosure. *Journal of Accounting and Economics*, 34(1-3), 149-180.

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0165410102000733

  1. Bongale, A., & Shrivastava, K. (2026). A comprehensive review of open source large language models for the analysis of earnings call reports and financial documents including applications, datasets, and long term challenges. *Discover Artificial Intelligence*, 6, 688.(オープンアクセスの総説)

https://link.springer.com/article/10.1007/s44163-026-01334-9

  1. Shah, A., Ye, M., Jaskowski, S., Xu, W., & Chava, S. Beyond the Reported Cutoff: Where Large Language Models Fall Short on Financial Knowledge.(COLM 2025 採択。本文はarXiv版を参照)

https://arxiv.org/abs/2504.00042

査読前・当事者による調査(限定を付して参照)

  1. Brunswick「U.S. Investor Survey 2026」(米国の機関投資家100名。IR支援会社による当事者調査・自己申告)

https://review.brunswickgroup.com/article/investor-survey-2026/

  1. QUICK「SCRIPTS Asia」サービス紹介(配信事業者側の説明。提供形式・提供時間に関する記述)

https://corporate.quick.co.jp/products/scripts-asia/

本記事について

  • 出典確認日: 2026年9月1日
  • 数値の母数: 日本IR協議会 第33回「IR活動の実態調査」は設問ごとに母集団が異なります。 本文では数値ごとに母数を明記しています。異なる母数の数値を合算しないでください。
  • 法令・制度に関する記述: 本記事は一般的な情報提供を目的としており、法的助言ではありません。個別事案の判断は、必ず自社の法務部門または弁護士にご確認ください。
  • AIO・LLMO・AIPM の位置づけ: これらは公式の規格名ではなく、実務上の呼称です。本記事はこれらを、生成AIの回答における引用・言及・表示・印象を改善する実務領域として扱っています。Googleの生成AI機能に表示されるための追加要件や専用のマークアップは不要であり、従来のSEOの基本が土台になると公式に説明されています。

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