ヘッドターム(検索の多い、短く一般的な語)で大手に勝てない企業は、AIの回答のどこに入れるのか。 本記事は、この問いにかかわる観測を二つの向きから並べます。
一つ目の向きは、引用の分散です。GoogleのAI Overviewsの引用は、検索結果の1ページ目より上位のホストへの集中が弱いという測定があります(未査読のプレプリント)。生成AIを使った検索の多くは、通常の検索より人気順位の低いドメインまで引く傾向がある一方で、向きはエンジンによって違う、という査読付きの論文があります。日本語の回答では、上位10ドメインが引用の9.5%にとどまったというベンダーの集計があります。
もう一つの向きは、出典の種類とブランドの言及の偏りです。Web検索を使うGPTは、同じ問いのGoogleより、報道・レビュー・比較サイトといったブランドの外の媒体を多く引いたという研究があります。ブランド名を出さずに人気のコーラを聞くと、主要ブランドの言及が多かったという実験があります。仕様が同じ製品を並べると、有名なブランドがすべて推薦されたという実験もあります(いずれも未査読のプレプリント)。
二つの向きは、同じ指標の表と裏ではなく、証拠の性質も揃っていません(§1-3)。本記事は両方を公平な分量で扱いますが、証拠の強さが同じだという意味ではありません。
本記事の結論は次のとおりです。 AIの引用元が多数のドメインに分散する観測はあります。しかし、企業の規模を単位にした一次データは確認できず、その分散が規模の小さな企業に有利に働いているとは言えません(§5)。主要ブランドの言及や既存の有名ブランドの推薦が多かった実験も、企業の規模そのものを測ったものではなく、 大手に有利だと結論づけることもできません。
本記事が言えるのは、入る余地がありうる場所と、その余地を確かめる方法までです。ニッチ戦略の古典(Porterの集中戦略、Carrollの資源分割モデル)は枠組みにはなりますが、AIの回答で確かめられた理論ではないため、類推として分けて書きます。
この記事で分かること
- ニッチ戦略の古典二つが、何を言っていて、何を言っていないか
- AIの回答の引用が散っているという観測と、それぞれが何を単位に数えているか
- 出典の種類やブランドの言及に偏りがあるという観測と、それぞれの実験の条件
- 引用が散っていることが、小さな企業の有利を意味しない理由
- 検索広告で、検索数の少ない語について先に観測されていたこと
- 供給側として入る余地を考えるときの整理と、約束できないこと
- 自社がどの問いで、どの位置に入っているかを測る手順と、その測定では分からないこと
対象読者
中堅・中小企業の経営者と、マーケティングの担当者を想定しています。「業界の代表的な語では大手に勝てない。では、AIに聞かれたときに自社が出てくる余地はあるのか」という問いを、伝聞ではなく出典の数字で確かめたい方に向けた記事です。
最初に置く数字
- 日本語の回答で、上位10ドメインが引用に占めた割合は9.5%でした(株式会社プリンシプルの集計。2026年5月時点、ChatGPTとPerplexityの回答に表示された引用URL116,966件。LLMO対策の支援を提供するベンダーによるもの)。
- ブランド名を出さずに人気のコーラを聞いた実験では、回答で言及されたブランドのうち主要ブランドの割合がChatGPTで56.3%、Perplexityで67.9%でした。ニッチ/インディーのブランドは12.3%と5.8%です(Chenほか、未査読のプレプリント。ブランドの分け方は著者の一覧によるもので、企業規模の分類ではありません)。
二つは、別の言語、別の時期、別の単位の数字で、並べて大小を比べる数字ではありません。引用の分散と、言及の偏りが、別々に観測されている。 その事実として置きます。